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22 Apr 2015

Melodica Club Concert

5月17日にロンドン市内の教会にて、メロディカ(鍵盤ハーモニカ)クラブのコンサートを行います。プログラムはルネサンス、バロック、クラシック、ジブリ、ジャズ、ボサノバ等バラエティに富んだものになる予定です。大人も子供も一緒に楽しめる内容になっておりますので、是非お越しください。

料金:無料 (寄付制) ドリンク付
未就学児入場不可(5歳以上対象となっております)

日程: 17th May 2015 (SUN)  14:00 - 16:00
場所: Holy Trinity East Finchley Church
Church Lane, East Finchley
London N2 0TH

出演者:メロディカ・クラブ—Ayumi, Ryusuke, Rika, Yumiko, Satomi (Melodica, Guitar, Vocal)

お問い合わせ:ukmelodica@gmail.com

20 Mar 2015

スティーブ・ライヒ 「Melodica」



Melodica (メロディカ)

作曲:スティーブ・ライヒ
鍵盤ハーモニカ:遠山麻友美
Realisation:小嵐龍輔

「Melodica」はスティーブ・ライヒによって1966年に作曲されたテープ作品である。ライヒが使った録音素材には現在普及しているような、鍵盤のついた「鍵盤ハーモニカ」ではなく、ボタン式のMelodicaが使用されている。我々の今回の録音には、音質が近いと思われるホーナー社の現行の楽器、Performer 37 を使用した。何パターンも録音した音素材の選定には吟味し、時間をかけた。非常に短い音素材をひたすら反復させるだけなので、わずかなニュアンスの違いが全体に与える影響は絶大であるからだ。

「Melodica」は、一定の速さで反復される一方のパートに対し、一方のパートを少しづつ遅らせていくという単純なアイデアによって作られている。この手法をPhase shifingという。アイデア自体は単純でも、実際の制作作業の方はそれほど単純なものではないという事は作ってみて初めてわかる。どのようなタイミング、どのような割合で片方のパートを遅らせて行くのか、あるフェイズから次のフェイズに達するのにどれくらいの時間を掛けるのかなど、バランスを取りながら入念に音素材の配置を決定していく必要があった。

ところで、「Melodica」は、同年に作曲された前作品「Come Out」から作曲法とリズム構造をそのまま受け継いでいる、いわば姉妹作品である。両作品の違いは反復に使用されている音素材で、「Melodica」が楽器音を使用しているのに対し、「Come Out」では、意味内容を伴うスピーチが素材とされている点である。素材の違いによる結果は非常に対称的に思える。「Come Out」での、青年Danniel Hammによる「傷口を開き、血が出ているのを彼らに見せてやらなければならなかった」——この痛々しい証言は、過剰な反復と位相のずれ効果によって、次第に意味を剥奪され、音素に解体され、最終的に痕跡をたどることさえ不可能な”ただ”の音響へたどり着く。青年の権力に対する無力さを象徴するかのように、ライヒは最後のフェイズの段階をフェイド・アウトさせて終わらせている。一方「Melodica」では、位相のずれによる様々な音響の様態(和声やリズム)を通過し、音同士が次第に積み重なり、密度は次第に高まっていく。最後のセクションでは規則的なパルスが発生するようにデザインされていて、あたかもクライマックスの様に響く。最後のフェイズに達した後は、しばらくその状態を保った後、突然の断絶によって音楽は幕を閉じる。

Duo Penguinistan

3 Mar 2015

ピーター・スカルソープ「Dua Chant」

鍵盤ハーモニカの音源を投稿しました。原題は、Dua Chant for Three Recorders。オーストラリアの作曲家ピーター・スカルソープ(1929-2014)によれば、この曲に使用されているメロディーは、1949年オーストラリアのアーネムにて、Elkin教授によって採集されたアボリジニの歌にもとづいているとの事 (参照:インタビュー)です 。スカルソープは、テレビ映画「Essingen」で使用したのを初めとして、その後も「kakadu」や「Djilile」といった自作品内でこのメロディを何度も使用するなど、大変気に入っていたようです。ただし、Steven Knopoffによれば、スカルソープの使用したメロディーはオリジナルからは知覚不可能なほど違っている、つまりアボリジニが実際に歌ったものとは全くかけ離れているようです。その辺りの事情は、例えば Jonathan Pagetの論文 「Has Sculthorpe Misappropriated Indigenous Melodies?」等が参考になります。 

録音には、木製メロディカ、バス・メロディオン B-24、ソプラノ・メロディオン S-32Cを使用しました。

   
Photo: Mark Roy (The ghost cars of arnhem land)

演奏者:
遠山麻友美 (テナー)
小嵐龍輔 (ソプラノ・アルト・バス)

 —Duo Penguinistan

楽譜:鍵盤ハーモニカ三重奏のための「君を乗せて」

「君を乗せて」鍵盤ハーモニカ三重奏の編曲楽譜がダウンロード購入できるようになりました。購入はコチラのサイトからできます。


元々は、子供の生徒たちがアンサンブルで弾く為にはじめた編曲です。ロンドンのメロディカ(鍵盤ハーモニカ)アンサンブルで取り上げました。「人生のメリーゴーランド」などもそうですが、難易度は抑えてあるので、鍵盤を少しかじった事がある人であれば、子供も大人も気軽に楽しむことが出来ると思います。「人生のメリーゴーランド」等と同様、対位法的技術を使い、それぞれのパートが独立しながらも、全体に密接に絡み合っているように仕上げました。「縦の」音の量を増やして複雑な響きをつくるよりも、むしろ不必要な音は出来るだけ減らし、旋律の「横の」流れやパート間の絡み合いに細心の注意を払っています。また、途中ではイミテーション(模倣)の技術を積極的に使っていて、エコーの様な効果を生み出しています。鍵盤ハーモニカの限られた音域や音色などを考えると、旋律/コードの伴奏というモノフォニックなテクスチュアよりも、このようなポリフォニックなテクスチュアの方が楽器の特色が活かされるように思います。


君を乗せて 映画「天空の城ラピュタ」より

作曲 久石譲
編曲 小嵐龍輔
演奏 遠山麻友美

楽譜:鍵盤ハーモニカ三重奏のための「人生のメリーゴーランド」

鍵盤ハーモニカ三重奏のための「人生のメリーゴーランド」の編曲楽譜がダウンロード購入できるようになりました。購入はコチラのサイトから可能です。



もともとロンドンで活動しているメロディカ (鍵盤ハーモニカ)・アンサンブルで演奏する為に編曲したものです。32鍵の楽器で演奏できるように音域を収めました。パート数は3つ、以前も書きましたが、鍵盤ハーモニカの限られた音域や音質を考えると、丁度良い数だと考えています。原曲では終始、主旋律のパートを単純な伴奏パートが支えているというモノフォニックなテクスチュアでしたが、編曲では対位法を用いて、3つのパートがもっと絡み合い、緊密に全体と関わるようにポリフォニックに仕上げています。また不必要と思われる音やセクションは削り、技術的にも出来るだけ簡素にして、プレイヤビリティと響きのバランスの良さを追求しています。


人生のメリーゴーランド (映画「ハウルの動く城」より)

作曲 久石譲
編曲 小嵐龍輔
演奏 遠山麻友美


31 Jan 2015

トマス・モーリー 「こおろぎ」&「風車」

ルネサンス期のイギリスの作曲家、トマス・モーリー Thomas Morley (1557-1602年) の作品がYoutubeにてお聞き頂けます。モーリーを存じない方は、シェークスピアの同時代人というとピンと来るかもしれません。








Il Grillo「こおろぎ」、La Girandola「風車」の両ピースはThe First Booke of Canzonets to Two Voycesに収められているファンタジア。尚、楽譜中には、Girandola?のように疑問符「?」が付加され表記されています。Bookeは、12の歌曲(Canzonets)と9の器楽曲(Fantasia)のレパートリーで構成されています。全て2声の対位法でかかれ、簡素で美しい作品が多く、鍵盤ハーモニカで良い響きがするように思えます。

Il Grilloの録音に使用したのは、両者とも前回の記事で紹介した木製鍵盤ハーモニカ(右・遠山麻友美 / 左・小嵐龍輔)。La Girandolaは今まで使用してきたもの(右・遠山麻友美)と木製鍵盤ハーモニカ(左・小嵐龍輔)。

以下は The First Booke of Canzonets to Two Voycesの前文より引用

Loe heere, most worthy Ladie these Canzonets of mine like two wayting maydes desiring to attend upon you; destinated by my Wife (even beefore they were borne) unto your Ladiships service. Not that for any great good or bewite in them shee thought them worthy of you: but that not being able as heeretofore still to serve you; shee would that these therefore with their presence should make good & suply that hir absence. For hir sake then vouchsafe, gentle Ladie, to entertain them; having no other thing to commend them to you for, but this that they are Virgins, never yet having once been out at standing perhaps in the highest degree they shall not satisfie you: yet if they shal but in any sort content you; I know that the greatest fault you will finde in them shable for their smalnesse. And so good Madame I cease further to trouble: but not still to serve and honor you. 

From London the 17. of November. 1595

Your Ladieships Ever to commanund

Thomas Morley

25 Jan 2015

木製の鍵盤ハーモニカ

2014年の暮れから2015年の初頭にかけて、2年ぶりに実家に戻っていた。故郷はひどい大雪だった。愛知での2つの演奏会を終えた後、父のアトリエで、父と鍵盤ハーモニカの外筐を木材で制作した。鍵盤ハーモニカに木材を使用する事についてはかなり昔から興味はあり、2013年頃にもロンドンで、試しに一度木を貼りあわせて作った事があった。その時は、製材用具もなければ、良い材料も調達するのが難しく、結局殆ど完成しつつも直前で中断してしまった。未だに木材は、ギターは勿論、様々な楽器制作に様々な素材を選択できる現代においても、最も一般的であり、人気がある。市販されている鍵盤ハーモニカの殆どは、耐久性を考慮してABS樹脂で作られているが、その一方で、SUZUKIのPRO-37 V2やHammond 44に見られる木目柄のデザインには、楽器製作者、あるいは演奏者の木材使用に対する憧れが表われているように見える。



今回使用した木材は、偶然アトリエにあったものの中から選んだものだ。木目の数を数えれば100年は経過していることがわかる(楽器作りとはなんと贅沢なのだろう)。おそらく檜だが詳細はよくわからない。香りは強くない。父によれば以前町が水害にあった時に水に浸かったということだから、10年以上はアトリエの中に寝かされていたのだろう。




全てを1から設計する訳ではなく、今回は市販のモデルをベースに外筐のみを制作したが、音を出してみてわかるのは、やはりリードが音質の大部分を決定している——つまり、どのような覆いを作るにかかわらず、基本的な音質の傾向は変わらないという事。それから、木材で作れば良い音がするというような単純な話ではないという事。当たり前だがどのような材を使用するかによるし、構造も大きく影響するだろう。わずかコンマ1ミリの違い、具体的には、空気箱のどの部分がどのように外筐に接触するかによって音質——倍音構成は多様に変化する。不必要な倍音をカットするために別素材も組み合わせて構成する必要もあるだろう。このような事は、同族の楽器コンチェルティーナを見れば明らかで、彼らは良い音を手に入れるために様々な工夫を凝らしている。



構造上の問題、材質の問題など研究課題は沢山残るが、音質的には想像するものに一歩近づいたという感じで、黎明作品として概ね満足している。音質に関しては、複数の人がオルガン(所謂、小学校等で昔使用されていた足踏みオルガン)の音になぞらえるのを耳にした。


音質等に関する詳細は後に記事にする。

—Ryusuke Koarashi

22 Jan 2015

コンドルは飛んで行く」鍵盤ハーモニカ三重奏

「コンドルは飛んでいく」はDaniel Alomía Roblesによって作曲された有名なペルーの歌です。最後のセクションの美しい一時的転調はRaúl Mercadoのバージョンに含まれているアイデアです。

 

 編曲:小嵐龍輔

 演奏者 (London Melodica Club):

Yumiko Shiratori
Ayumi Toyama
Ryusuke Koarashi

手の痺れ

誰にも言っていなかったことだが、実は鍵盤ハーモニカ・遠山は2014年、長期間に渡り左手にひどい痺れがあって、ごく最近になってようやく回復した。同年の暮れには幾つかの演奏をすることが決まっていたので、そこでは、出来るだけ左手に負担がかからない、または負担が長時間連続しないようなレパートリーを作る必要があった。

Pocket Penguin—Duo Penguinistanでは、今まで両手が自由に扱えることを前提にして、レパートリーを設計してきた。2重奏というミニマムな形態で色々な音楽をしていると、要求する音や音数にはどうしても片手では足りない場合があるのである。他の多くの鍵盤ハーモニカ奏者がやっているように観客に見せるために楽器を縦に構える方法もあるが、そのようにせず、見かけを犠牲にして、楽器をピアノのように横に寝かせる構えをしているのは、それが左手の自由な動き、左右の均質さを可能にするからだ。

鍵盤ハーモニカは複音を出すことのできる、ポリフォニックな楽器である。しかし、一方でその独立性には限界がある。2つの音を出せば各音の音量が違うし、片方の鍵盤を離す時には音量が変化してしまう。音数が増えれば息も大量に消費する。このような鍵盤ハーモニカの特性には演奏上、そして特に、編曲上悩まされてきた。複数のパート間の独立性やバランスを損なわないような音を選択し、息をする場所も確保しなければならない。

ところで昨年はロンドンでメンバーを集めて、鍵盤ハーモニカの合奏クラブをはじめた。そこでは、いわば今まで一人でやっていたことを、複数のパートに分けてそれぞれ分担して演奏することができる。分散させることで、一人の時に立ちはだかる技術的限界は軽々と乗り越えられる。勿論編曲の選択肢は増えるし、音の分離も良くなるわけで、いいことずくめという訳である。

このような合奏での経験、そして手の故障を通して、一人で出来る事の限界点や特性がよりはっきりと見えてきたような気がする。皆でできる事は、一人で抱え込まず、皆でする方がよいだろう。

18 Jan 2015

鍵盤ハーモニカ三重奏による「ウィーアー!」

以前書いた記事でも少し触れましたが、2014年の1月からロンドンで鍵盤ハーモニカのアンサンブルをやっています。発足からちょうど一年が経ちました。今回の曲「We Are!」はそのアンサンブルクラブのレパートリーです。アニメ「One Piece」のオープニングソングだった曲ですが、クラブのメンバーのSさんによって提案され、いつものように小嵐龍輔によって3パートに編曲されました。音域が限られていて、倍音が鋭くぶつかりやすい鍵盤ハーモニカにとって、3パートは、響きの豊かさを獲得しながら、テクスチュアの透明性を保つことのできる丁度良い数のように思います。




ウィーアー!

作詞:藤林聖子 作曲:田中公平
編曲:小嵐龍輔

演奏者:
Yumiko Shiratori
Satomi Hori
Ryusuke Koarashi