20 Mar 2015
スティーブ・ライヒ 「Melodica」
Melodica (メロディカ)
作曲:スティーブ・ライヒ
鍵盤ハーモニカ:遠山麻友美
Realisation:小嵐龍輔
「Melodica」はスティーブ・ライヒによって1966年に作曲されたテープ作品である。ライヒが使った録音素材には現在普及しているような、鍵盤のついた「鍵盤ハーモニカ」ではなく、ボタン式のMelodicaが使用されている。我々の今回の録音には、音質が近いと思われるホーナー社の現行の楽器、Performer 37 を使用した。何パターンも録音した音素材の選定には吟味し、時間をかけた。非常に短い音素材をひたすら反復させるだけなので、わずかなニュアンスの違いが全体に与える影響は絶大であるからだ。
「Melodica」は、一定の速さで反復される一方のパートに対し、一方のパートを少しづつ遅らせていくという単純なアイデアによって作られている。この手法をPhase shifingという。アイデア自体は単純でも、実際の制作作業の方はそれほど単純なものではないという事は作ってみて初めてわかる。どのようなタイミング、どのような割合で片方のパートを遅らせて行くのか、あるフェイズから次のフェイズに達するのにどれくらいの時間を掛けるのかなど、バランスを取りながら入念に音素材の配置を決定していく必要があった。
ところで、「Melodica」は、同年に作曲された前作品「Come Out」から作曲法とリズム構造をそのまま受け継いでいる、いわば姉妹作品である。両作品の違いは反復に使用されている音素材で、「Melodica」が楽器音を使用しているのに対し、「Come Out」では、意味内容を伴うスピーチが素材とされている点である。素材の違いによる結果は非常に対称的に思える。「Come Out」での、青年Danniel Hammによる「傷口を開き、血が出ているのを彼らに見せてやらなければならなかった」——この痛々しい証言は、過剰な反復と位相のずれ効果によって、次第に意味を剥奪され、音素に解体され、最終的に痕跡をたどることさえ不可能な”ただ”の音響へたどり着く。青年の権力に対する無力さを象徴するかのように、ライヒは最後のフェイズの段階をフェイド・アウトさせて終わらせている。一方「Melodica」では、位相のずれによる様々な音響の様態(和声やリズム)を通過し、音同士が次第に積み重なり、密度は次第に高まっていく。最後のセクションでは規則的なパルスが発生するようにデザインされていて、あたかもクライマックスの様に響く。最後のフェイズに達した後は、しばらくその状態を保った後、突然の断絶によって音楽は幕を閉じる。
— Duo Penguinistan
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