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22 Jan 2015

手の痺れ

誰にも言っていなかったことだが、実は鍵盤ハーモニカ・遠山は2014年、長期間に渡り左手にひどい痺れがあって、ごく最近になってようやく回復した。同年の暮れには幾つかの演奏をすることが決まっていたので、そこでは、出来るだけ左手に負担がかからない、または負担が長時間連続しないようなレパートリーを作る必要があった。

Pocket Penguin—Duo Penguinistanでは、今まで両手が自由に扱えることを前提にして、レパートリーを設計してきた。2重奏というミニマムな形態で色々な音楽をしていると、要求する音や音数にはどうしても片手では足りない場合があるのである。他の多くの鍵盤ハーモニカ奏者がやっているように観客に見せるために楽器を縦に構える方法もあるが、そのようにせず、見かけを犠牲にして、楽器をピアノのように横に寝かせる構えをしているのは、それが左手の自由な動き、左右の均質さを可能にするからだ。

鍵盤ハーモニカは複音を出すことのできる、ポリフォニックな楽器である。しかし、一方でその独立性には限界がある。2つの音を出せば各音の音量が違うし、片方の鍵盤を離す時には音量が変化してしまう。音数が増えれば息も大量に消費する。このような鍵盤ハーモニカの特性には演奏上、そして特に、編曲上悩まされてきた。複数のパート間の独立性やバランスを損なわないような音を選択し、息をする場所も確保しなければならない。

ところで昨年はロンドンでメンバーを集めて、鍵盤ハーモニカの合奏クラブをはじめた。そこでは、いわば今まで一人でやっていたことを、複数のパートに分けてそれぞれ分担して演奏することができる。分散させることで、一人の時に立ちはだかる技術的限界は軽々と乗り越えられる。勿論編曲の選択肢は増えるし、音の分離も良くなるわけで、いいことずくめという訳である。

このような合奏での経験、そして手の故障を通して、一人で出来る事の限界点や特性がよりはっきりと見えてきたような気がする。皆でできる事は、一人で抱え込まず、皆でする方がよいだろう。

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