鍵盤ハーモニカを弾かない方やあまり知らない方には、修理や調整というのは遠い言葉かもしれませんが、鍵盤ハーモニカの奏者にとっては必須の事柄です。
昨年の11月頃、生徒達と合奏をするために、10台程のまとまった数の鍵盤ハーモニカの修理/調整を請け負っていましたが、そこで扱った鍵盤ハーモニカ2台のサンプルを動画記録して、調整前後でどれほどの違いが出るのかと比較してみました。
どちらの動画でもStaggというメーカーの楽器を取り扱っています。イギリスで購入出来る鍵盤ハーモニカの中では、低価格でお手頃なメーカーです。内部はホーナーと同じ構造で、音色も似ています。ちなみに動画で扱っている2つの楽器は色違いで同一形状ですが、内部のリードには異なる材質が使われています。
動画では「おしんのテーマ」を例にして、修理前後を比較しています。違いがわかるでしょうか?
今回の修理では、下記の3点を改善しています。
1.発音のレスポンスの改善
2.キーノイズ
3.スプリングノイズ
以下はそれぞれの項目についての説明です。
1. 購入したばかりの鍵盤ハーモニカには、レスポンスの悪いものが多いです。つまり、音を出す為に沢山息を吹き込む必要があったり、あるいは息を吹き込んでから音になるまでに時間がかかるという事です。動画で確認できるように、和音を弱音で立ち上げるなどの表現は、この調整無しではほぼ不可能です。低価格帯の楽器は音がなかなか出ない等、特に酷い場合がありますが、価格に関わらず、ほとんど全ての市販の鍵盤ハーモニカで追い込む余地があります。
2. キーノイズにはいくつか原因と、それぞれの対策法があります。今回施しているのは、鍵盤が底に接触する際にでるノイズへの対処です。イアンペイスが提唱するように*1、鍵盤をわざと強く叩いて、異なる質のアタックを作ることがあるのですが、基本的には目立つノイズは極力抑えるようにしています。動画内で比較があります。
3. 鍵盤ハーモニカの鍵盤は、バネによって定位置に戻るようになっていますが、このバネがノイズの原因になります。動画内で高い残響のような音が持続的に聞こえるのがわかるでしょうか?バネに響いている音です。
これらの修理は1台30分~1時間程でできるごく基本的なものですが、その容易さに比べて、動画で確認出来るようにかなりの効果があります。(加えてピッチの調整もするべきなのですが、時間とコストがかかる為、特別に頼まれた方の楽器のみに行いました。)
*1ペイスは、エリオットカーターのピアノ曲で、細かに指定されたダイナミクスを弾き分ける為、指が鍵盤に触れる際のキーノイズを利用し、少し鋭いエッジを音の頭に与えるタッチについて語っている。Crispin, Darla(editor), Unfolding Time, Ghent Belgium 2009, P.159
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